各国の社会保障制度」は、研究テーマですので、この内容をもとに各国の社会保障制度について行動、判断することはおすすめできません。作成時期2008年

各国の社会保障制度

社会保障制度は世界によって様々である。
また、社会保障という言葉の捉え方も国によって全く異なる。

日本で流通している社会保障に関する定義は3種類あるが、その中でも国内において最も公的性格を帯びている社会保障制度審議会の定義では、狭義の社会保障に該当するものとして社会保障、公的扶助、社会福祉、公衆衛生、老人保健が挙げられている。

これに対して、イギリスで社会保障という言葉が意味する内容は、所得保障(現金給付)に限定されている。ちなみにこの考え方はイギリスの社会保障の第一歩となったベヴァリジ報告にも見られるものである。
例えば、疾病手当金に観点をおくとイギリスでは法定疾病手当金は、日英ともに社会保障の一部と考えられている。
しかし、その考えに至る思考経路は異なっている。

日本では、疾病手当金の類は医療保険から支給されるために医療保障の一部であり、そして医療保障は社会保障の一部である、という道筋をたどるのに対し、イギリスでは法定疾病手当金は所得保障の一環であり、だからこそ社会保障である、という道筋を辿るのである。

イギリスでは上述のように社会保障を考えているため、制度そのものは非常に簡略化されている。
イギリスで社会保障の中心となっている制度として国民保険があるが、これは被保険者、保険事故の双方の点から包括的で単一の制度となっている。
イギリスの国民保険は国籍を問わず、義務教育修了年齢(16歳)以上の居住者全員に強制適用され、民間の被用者、公務員、自営業者すべてが強制加入の対象となっている。
また、この国民保険によってカヴァーされる範囲も広く、老齢、遺族、障害、疾病、失業、労災など多岐にわたっている。老齢年金も当然この国民保険から支払われる。

各国の社会保障制度の仕組み(簡易版)

日本日本で流通している社会保障に関する定義は3種類あるが、その中でも国内において最も公的性格を帯びている社会保障制度審議会の定義では、狭義の社会保障に該当するものとして社会保障、公的扶助、社会福祉、公衆衛生、老人保健が挙げられている。
アメリカ基本的には、米国内で就労して得た収入からソーシャル・セキュリティー税を受給資格を満たす年数納めると、年金などの社会保障を受けることができる。加入するためにはソーシャル・セキュリティー・オフィスにてソーシャル・セキュリティー番号を取得しなければならない。
イギリス所得保障(現金給付)に限定されている。
ドイツ年金保険(公的年金)、医療保険、労働災害保険、失業保険、介護保険の5つの社会保険制度等により社会保障制度が構成されており、世界有数の社会保障先進国として定着している。
中国中国の社会保障制度は、1)社会保険、2)社会救済、3)社会福祉(企業福利厚生を含む)、4)優撫配置(現役軍人、退役軍人およびその家族・遺族に対する優遇策)、5)社会扶助、6)個人積立貯蓄保険(生命保険など)という6つの基本制度で構成される。その中で、社会福祉は極めて狭い範囲のものしかなくて、養老、失業、医療、出産育児、労働災害という5つの社会保険は社会保障の中核を成している。
ベトナム社会保障制度はほとんど未整備である。
スウェーデンスウェーデンの社会保障は公的性格が強く、義務性で公的に運営されるか又は国によって大幅に助成される任意保険であり、一元的組織形態を採用している。したがって、財源では公的負担の割合が比較的高い。任意保険は、唯一失業保険であり、労働組合ごとに組織化され、社会保険局ではなく、労働市場庁の管轄におかれる。家族や子供に対して、また疾病、障害、高齢になった時の経済的安定の保障を目的とする。スウェーデンの社会保険は、世代間ならびに国民グループ間の再分配をはかるところから、「連帯的保険」と呼ばれる。
フランスフランスの社会保障金庫は主にその加入者の拠出金により得られる。社会保障金庫は加入者の職業形態により大きく分けて、被用者一般金庫、自由・自営者金庫、農協金庫、その他鉄同職員金庫などに別れる。

社会保障費の比較

日本の社会保障給付費の水準は、世界からみてどうなっているのだろうか。

2004年の国立社会保障・人口問題研究所の資料によると、福祉先進国といわれる北欧のスウェーデンが32.0%、ドイツ28.2%、公的医療保険未整備のアメリカが14.5%なのに対し、日本は13.1%という水準でしかない日本の水準はドイツの約半分、スウェーデンの約3分の1しかなく、国際的に見て日本の社会保障費は低いことが分かる。

在宅介護の国際比較

ここでは、アメリカとスウェーデンと日本を比較して在宅介護の仕組みを紹介する。

アメリカでは伝統的に自助勢力の考えがあり、在宅ケア・サービスの直接の担い手は、民間部門であり、病院、営利企業、非営利団体、訪問看護協会などである。

資金調達の方法は、公的保険であるメディケア、メディケイドによる償還と民間保険を通じた個人負担などである。メディケアは高齢者用医療保険で、在宅部門では、外出困難な高齢者への在宅医療が目的であり、介護とは少し異なる。

また、メディケイドは貧困者用の保険であるが、その多くは施設介護に使用され、予算との調整もあって、在宅介護にまわってくる予算は4%程度である。

必然的に個人負担が多くなり、ヘルス・ケア産業が病院を主体として増加している。そのサービス内容に制限はなく、多様なプログラムがある、その結果、民間介護保険の需要が伸びてきているようだ。

一方スウェーデンでは、すべてのプログラムの供給主体が市町村なので、租税負担率は高くなるが、障害を持っても安心して在宅で暮らすことができる。
サービス内容が多様であり、また一人で複数のサービスを受けることができる。これは1982年にできた「社会サービス法」によって、だれでも質の高いケアを受ける権利があると保障された結果でもある。また、さらに効率性を確保するために、民間委託を推し進めている。

日本では、長期介護について、施設介護から在宅介護へ、中央集権モデルから分権モデルヘと大きく転換しつつある。
それらは高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上、自己決定権などの視点と柔軟な個別対応の必要性からだ。介護者、要介護者を援助するための公的プログラムも充実してきたが、まだまだ高齢者の自立支援策としての厚みが不十分である。また、財源対策として、自己負担率の問題、公的介護保険の導入などが検討されているが、サービス供給の主体者としての市町村の自立と並んで、需要者として介護に関わるすべてを公的サービスで賄うには、介護の社会化についての国民全体の合意が必要なのではないだろうか。



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